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回答者:磯谷尚孝
花火の道に進む事を決心したのは、いつ頃ですか?
中学の頃には、もう仕事を手伝っていました。夏休みはほとんど、工場で過ごしたと言っても良いと思います。当然、花火打揚げ現場にも付いて行きます。その時、花火を見た観客の歓声が聞こえてくるのです。観客の反応で、素早くその花火が、その演出が良かったのかどうかわかります。こんなに反応がすぐわかる仕事も珍しいなと思いました。そうこうしているうちに花火の虜になってました。高校時代を迎えると、将来の仕事は花火以外に考えられませんでした。私の父はいつも「花火の仕事を継ぐな」と言ってました。皆さんにその話をすると、「父親だから本当は仕事を継いで欲しかったんでしょう。」とおっしゃいます。でも本当のところ、他界した父がどう思っていたのか今でもわかりません。ただ父親の時代は、花火生産業者にとって、苦しい時代が長く続いたと思います。私は、あまのじゃくの性格だから、家業を継ぎなさいと強要されたら、多分嫌になっていたと思います。子どもの頃、父親と二人で車に乗ると、よく花火の昔話を聞かされました。主に自分の作った自信作の事でした。少なくともプライドを持てる仕事につきたいと思いました。
花火の工程の中で、どの作業が一番重要ですか?
花火を作る工程は、主に4つに分類できます。薬品を計量して均一な混合薬を作る配合工程、それを元に花火の光を出す部品「星」を作る成形工程、それを玉皮に仕込む仕込み工程、最後にクラフト紙を貼る仕上げ工程があります。花火の科学的な究明はまだあまりされていません。もしそれがわかっていたら、どの工程にどれくらい力を入れようという配分が予めできるでしょう。それがわからないために、いい花火を作るには、全てに気を抜くことはできません。それと4つの工程で全てが80点の花火と、ある工程が60点で残りの工程が90点の花火を比べると、前者の方が明らかにいい花火だと思います。一つの工程で問題があると、全体がすべて悪くなってしまいます。4つの工程全てがお互いに関連しあっているので、全体のバランスをとることが一番重要だと思います。花火業者に聞くと、よく星作りが一番重要だとおっしゃいます。確かに花火の見える部分は星ですから、それはそれで正しいとは思いますが、いくら上手に星を作っても配合組成率を決めた時に、ある程度色は決まってしまうのです。ですから必ずしも星作りが一番重要とも思えないのです。早く科学的究明がされて、予め力のいれ具合を調整できる日が来るといいなあ、と思ってます。
科学の話をした後にこんな事を言うと変ですが、花火には科学で割り切れない部分もあると思うのです。自分が気持ちを込めて作った花火は、やはりそれが花火に表れるような気がしてなりません。
Q:花火を作るのにどれくらいの期間がかかりますか?
花火の製造は、一玉一玉作るのではなく工程ごとに独立して作業を進めています。例えば前の工程でできた部品が、すぐ次の工程へ回されるのではなく、一時的に倉庫に保管されるのが普通です。ですから何日かかるかというのは、非常に答え辛いのです。最も早く作ろうとしても、日乾作業が天候に左右されるし、もちろん玉のサイズによって違いますが、少なくとも2週間は必要です。花火のシーズンは夏ですから、それに向けて全体の生産調整をします。
花火で文字を表すのは、どうやって作るのですか?
花火の開花を超高性能ビデオで撮ったと仮定します。その映像を逆戻しすると、星は遂に花火の玉皮の中に入ってしまうでしょう。例えば「A」と空に描かれる花火は、玉皮の中でも「A」と言う形を保っています。つまり玉皮の中で星が「A」の形に並べられているのです。このように何か具体的な形を現す花火は、型物花火と呼ばれています。型物花火を打揚げる時に、避けて通れない問題があります。文字のような花火は平面で現すので、花火が開花する寸前の玉の姿勢と自分の位置により、様々な見え方をしてしまいます。(参考図 )現実には不可能ですが、花火の開花直前の姿勢制御ができ、自分にはその形が完全に見えたとしても、花火を中心として自分と90度と270度の位置にいる人には、その形が全くわかりません。180度の位置(自分と花火の延長線上)の人は、自分見ている形を裏側から見ていることになります。
Q:火薬を扱うことは非常に危険です。どんな注意をしてますか?
一般的に考えれば、火薬を扱うことは確かに危険だと思います。しかし、毎日恐怖を常に意識しながら、仕事をするということはありません。多分人間にはそんな事はできないと思います。人間には多かれ少なかれ、慣れということがあります。自分が毎日見ていると、周りに潜む危険に気づかずに通り過ぎてしまいます。そんな時、いつもと違う目で見るとか、他の人に見てもらうと気づくことがあるのです。社員にはお互い相手の仕事の周りを見て、注意し合うように言っております。それと原料薬品、道具、器具等に危険が潜んでいないか考えています。そういう安全に対し環境整備の方が意味があるような気がします。
それでも自分が工場を離れていると、安全に作業をしてくれているか非常に気になります。終業の時間が過ぎても何の連絡もないと、「今日も一日事故なく過ごせたんだな」
と安心します。
メロディー花火はどのように生まれたのですか?
花火は観客を感動させるエンターティメントです。そして、音楽もそうです。二つのエンターティメントがシンクロしたら、1+1が2ではなく、3にも4にもなると確信して始めました。かなり以前から花火に、音楽を取り入れようとする試みはありました。しかし、日本では花火の発射時間を調整するのに導火線を使っていたので、精度が悪くなかなか音楽花火が成功しなかったんです。まず最初に考えるのが、電気点火という点火方法です。つまり電気を流すことで花火の点火が遠隔操作できます。一曲の中に、ココだと思うタイミングが数カ所ならこれでできます。最初はこの方法で始めました。花火の打揚げ現場は当然ですが、ものすごい爆音です。花火が揚がり始めると音楽が全く聞こえなくなり、次のタイミングは全然聞こえませんでした。これはもうコンピューター制御以外には考えられないなと思いました。私の大学時代の友人がコンピューター関連の会社にいて、相談したところ実現可能なことがわかりました。先ず彼が設計をして部品集めから始めました。彼は長野に住んでいるので、週末愛知県にやってきては二人で作りました。結構大変な作業で、試験点火がうまくいった時は感激しました。自作第一号機 を作ったのは平成元年でした。これで音楽とのシンクロができるようになったのです。平成3年豊田おいでん祭りでメロディー花火のデビューを迎えたのです。現場サイドの制約を何年かかけてクリヤーして、完成したなと感じました。
大学での勉強は今の仕事に役立ってますか?
高校時代から自分の進むべき道は花火だと決めていたのですが、ご多分に漏れず大学時代はほとんど勉強もせず、クラブ活動で山に登り続けていました。今、大学に行って良かったと思うのは、日本全国に散らばったそれぞれの分野のエキスパートの友人たちがいることです。最近ではこの業界の研修会でも、学会の論文などが紹介されます。そんの時、少しは馴染みがあるので、論文も読みやすいかなと思います。
創造花火と割物花火どちらが難しいですか?
伝統的丸い花火が割物花火と呼ばれ、それとは反対に今までの伝統から離れ、自由に形などを表現した花火が創造花火と呼ばれます。どちらも、それぞれ難しい所があります。私の父親の時代は、どちらかというと観衆に見せわかってもらおうと言うより、自分のプライドのために割物花火の改良に苦心していました。それはそれで、花火職人達にとっては良かったのかも知れませんが、どう見ても本末転倒していると思います。そんなことから創造花火という分野が、生まれてきたのでしょう。競技会で割物花火を見ていても、花火のプロでない観衆には、ある程度完成域に入った割物花火の違いがあまりわからないのではないかと思っていました。
今はなくなってしまいましたが、フィギュア、スケートの競技に規定演技と自由演技がありました。ただもっぱらテレビ放映されるのは、自由演技ばかりで規定演技が放送されることはめったになかったと思います。まさに規程が割物花火で自由が創造花火です。採点という面から考えると、創造花火は加点法、つまりこの花火はどこが良かったかによって点数を入れていきます。逆に割物花火は減点法、どの部分が悪かったによって減点されていきます。
何年か前ある全国の競技大会を見ていた時のことです。その割物花火は私から見てもほとんど減点するところがなく、パーフェクトに近いものでした。そうするとどうでしょう。長い間割物花火を見せ続けられ、少々退屈していた観衆からもどよめきがわきました。その時、私はあるショックを受けました。花火のプロは、どうしてその花火が良かったのかを言葉で説明できます。
もちろん観衆にはそんなことはできません。しかし、良いか悪いかはわかるし、素晴らしい花火には感動するのです。素人を見くびってはいけないと、つくづく思い知らされました。

最近の花火の傾向は?
花火の構造は江戸時代以来あまり変化していません。変化してきたのは原料薬品です。昔の花火に比べると、現代の花火はより明るく鮮やかな色を表現できるようになりました。色々な金属を花火に取り入れることで、
燃焼温度が上がり、はっきり色を出せるようになったのです。特に最近の傾向として中間色があげられます。レモン色、水色、オレンジ色等がそうです。
また中国製の部品を花火に取り入れるようになったと言うこともあります。
演出面で言えば、一玉一玉じっくり鑑賞するよりは、たくさんの花火で構成するスターマイン等が全盛になってきています。また保安距離の関係で打揚げる花火のサイズはスケールダウンし、小さい花火をたくさん打揚げる傾向にあります。
今年の新作花火はどんなものですか?
新作花火とは何でしょう?今までにあまり見たことのない花火なら、結構簡単にできます。しかし、この質問をする裏側には新しい花火でしかも美しい花火、という前提が隠されていると思います。新しい発想で考えても、それが必ずしも美しくいい花火につながるとは限りません。何回か試験して方針が決まった後、タイトルを考えます。新しい花火は数年の改善を繰り返し、一応完成します。毎年毎年新作を考えるのは、実際にはなかなか難しいことです。またよく花火のタイトルと、花火はどちらが先なのかと聞かれますが、私の場合はまず花火です。今までにこんな形の花火はなかったという発想から、あるいは色々な花火を見てそれがヒントになり形が決まることもあります。
今後どんなことを目標にしてやっていくつもりですか?
将来どんな花火を作りたいう具体的な目標はありません。花火も世の中の動き、人の嗜好により変化していく物だと思います。ただ、人の心に残る花火、多くの人が喜んでくれる花火を作って演出していきたいと考えています。
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