科学のメス

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科学のメス

寄稿先:花火万華鏡

 「綺麗な花火を作りたいんだけど、方法がわからないんだよね。」打揚花火を作り始めてから、ずっと思いボヤいてることである。「こうしたら、どうだろう?ああしたら、どうだろう?」試行錯誤の日々である。しかし、どの道もすぐ袋小路にぶちあたる。結局、「花火は、科学的に解明されていないから」で終わってしまうのである。

最近、検査所の畑中氏と親しくさせていただいている。自社の抱えている技術的問題を聞いていただいている。そして、いつも思うのは、当たり前のことだが氏は科学者であるということだ。科学の知識が豊富なのは言うまでもないが、考え方自体が科学的だと痛感する。将来、花火を科学的に、解明してくれるのは検査所だと思う・・・思いたい。検査所の通常業務は相当忙しそうなので、人ばかりに頼っているわけにもいかないし、完全解明までには、まだ相当の時間がかかると思う。花火作りに携わる私自身が、少しでも花火に科学を生かし、花火作りを進めるべきではないだろうか。でも、現実は検査所にあるような検査機器が手近にあるわけでないからと、あきらめてしまうのである。もし、花火が科学的に解明されて、花火作りの教科書なんかができたら、素晴らしいだろうなあ、と考えるのは自分だけだろうか。たとえば、「その工程は、出来映えにほとんど影響しないから、早く切り上げて」とか、「この工程は開花の形に重要な影響を与えるから、じっくり時間をかけ丁寧に作業をしなさい」などと書いてあったら、どんなに心強いだろう。心の声はいつも「花火作りの指針が欲しい」なのである。

 花火業界の人たちは、科学的指針がないから、藁にでもすがる思いで、妙な「神話」を作ってしまうらしい。神話の一つに、マグナリウムが入っている配合薬には、「おまじない」のように重クロム酸カリを入れなさい、などだ。

 当社では、数年前から冬の時期、社員に冬季研究を課している。目的意識を持ってもらいたい、という期待からである。最近、予想以上にワクワクする研究発表がでてきている。今年の最優秀発表は、「抜き星における、加える水の量と密度、燃速への影響」だった。今まで当社では、抜き星を作る際、加える水の量は手の触感で教えていた。手の触感は、人によっても違うし、人の気分によっても変わる曖昧な物だ。だいたい人に伝えるのには、かなり難しい。このことに焦点を当てた研究だったが、私自身ハッとした。次からは配合薬何gに対して最適値何gの水を入れなさいと指示できる、かも知れない。

 高度な検査機器なんかなくたって、科学究明はできるんだと痛感する。畑中氏はよく「数値化」つまり「データ化」というキーワードを口にされる。現象を数値に置き換え、客観的に現象を考えるという、科学の第一歩だと思う。

 今年になって、一人の社員がおもしろい提案をしてきた。星の密度、燃焼時間、経時変化の関係を、解明しようと言うのだ。現在、星のデータを取り始めたばかりだが、それでも数値化してグラフにすると、今まで気付かなかったことがわかったり、新しい発見がある。星のデータを数値化するのに用意した物といえば、ものさし(デジタルノギス)とはかり(比重計)だけだ。とても検査機器と呼ぶにはおこがましい物ばかりだ。

 煙火協会相談役の武藤氏の名言に「花火は単なる化学現象だ。それを芸術までに高めるのが日本の花火職人の役割だ」というのがある。代々受け継がれてきた伝統的花火技術は、科学が立ち入ってはいけないところではないと思う。科学の助けを借りて、何年か先にはきっと今より少しでも綺麗で芸術的な花火を、と心に思い描いている。