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職人の技

投稿日:2024/06/01

株式会社磯谷煙火店
磯谷尚孝

 自分は花火職人だと、人前で胸を張っていうのはおこがましいので、あまり職人という言葉は普段使いませんが、今回は職人の技について少し書いてみます。

 

 以前業界の先輩に「手には眼がある」という言葉を聞きました。花火作りの作業中、手は汚したくないので私たちもよくビニール手袋を使います。花火の火薬は木炭が多く使われているため、素手で作業をすると爪の間に火薬が入って黒くなり手を洗ってもなかなか汚れが落とせません。ビニール手袋を使った場合、星の濡れ具合とか眼で判断するしかありません。ところがその作業を素手ですると、眼だけではなく手の感触で濡れ具合がより正確にわかります。上手いことを表現した言葉だな、と感心しました。そして同業者で爪が汚れている人を見て、この人は職人なんだなと判断したりします。

 

 「教えてもらうのではなく、技術は目で盗め」と職人の世界ではよく言われます。カッコイイ言葉だなと思っていました。私はこの言葉を最初聞いた時、こんな情景を思い描いていました。師匠である職人は頑固で無口で、弟子に手取り足取り簡単に技術を教えてくれない。早く技術を覚えたい弟子は、師匠のした仕事を師匠のいない間に、こっそりじっくり観察し仕事を覚えていく。でも最近はこれとは違う観点でこの言葉をとらえています。同じ作業を言葉で教えても、教えられた者は人により受け止め方が大きく違います。例えば力の入れ具合とか水で練った薬剤の堅さとか、言葉で説明するには限界があります。そんな時は言葉より師匠が作業をしているところを見た方が遙かにわかりやすかったりします。この言葉の本質は実はこのことにあるのではないかと最近思っています。実際のところ私も手取り足取り教えてもらったことはなく、人の作業を目で見てほとんど覚えてきた気がします。

 

子どもは親の背中を見て育つ、と言いますが、言葉で言い聞かせるより親の行動で示した方が何倍も説得力があるということでしょう。そして職人としての生き様、誇りなども、その人の背中を見ていた方がより伝わりますね。

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