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冠菊(かむろぎく)ってなあに?

投稿日:2020/01/04

株式会社磯谷煙火店 磯谷尚孝

kamurogiku-2shells 「私、花火好きなんですよ!一番好きな花火は大きく広がって、ずっと下までたれてくる花火です!」一般の方とお話ししていると、よくある会話です。「そうなんですね。」と返答するのが常ですが、恐らく日本人の大多数が好きな花火の種類ではないかと思っています。花火マニアが勉強を始め、最初に出てくる花火の種類は“菊”、“牡丹”ですが、日本人に大人気な種類は冠菊に間違えありません。花火が時間とともに大きく広がっていくのが特徴で、花火用語では“冠菊”(かむろぎく)と呼ばれています。今回はこの冠菊にスポットを当て、科学的にマニアックに説明します。因みに私の祖父なんかは「花火を追求する者にとって、冠菊は邪道だ。」と言っていたらしいです。

酸素バランス

 火薬学用語でよく出てくるものに“酸素バランス”という言葉があります。酸素バランスとは、火薬や爆薬の組成が完全に酸化されるために必要な酸素原子が、火薬の組成中に元々含まれているかどうかを見る指標です。産業爆薬の世界では酸素バランス0(ゼロ)を目標に、最高の威力、最高の爆発速度を実現しています。ただ、花火の場合は最高の威力が必要な訳でなく目で見える現象が重要で、酸素バランスが0になっていないものが多いのです。 黒色火薬は火縄銃の発射薬として日本に入ってきて、組成は硝酸カリウム、木炭、硫黄です。それ以降、花火への応用で組成比率を色々変えアレンジしてできたのが“菊”、“冠菊”と言えます。この組成で酸素バランス0のものが黒色火薬です。

(酸素バランスマイナス)冠菊<<<菊<<<黒色火薬(酸素バランス0)

 花火を作る視点から見ると、冠菊の星は燃焼時間が長いのが特異です。通常の星の2〜3倍の時間をかけて、ゆっくり燃えます。冠菊の組成比率は、酸素バランスを大きくマイナス(酸素不足)に設定し、燃焼時間を長くしています。黒色火薬などでは即座に燃えてします木炭が過剰に含まれているため、木炭が燃え切れず星が飛んでいく後方に残ります。これが空気中の酸素と燃焼するため、星は流れ星のように後方に尾を引くわけです。

kamurogiku-illustration

 動画のように冠菊の星を地上燃焼させると、あまりに弱々しい燃え方で光がよく見えませんね。冠菊、錦冠菊ともに燃焼後、多量の木炭が残ります。実際の現象では、星が勢いよく飛ばされていることもあり、これらの木炭は空気中で燃えて流れ星のような尾を作ります。

錦冠菊

 1980年前後から花火にチタン粉末を入れる動きがあり、冠菊にもチタン粉末が加えられました。チタン粉末も木炭と同じような働きをして、木炭だけの炭火の薄いオレンジ色から、明るく白っぽい色に変化しました。これを“錦冠菊”と言います。今ではチタン粉末の入らない冠菊は特別な場合を除いて使われなくなり、同業者同士の会話では“冠菊”、“冠(かむろ)”と言えば、錦冠菊を意味することが多くなっています。

 木炭の効果を代替えする花火原料がないため、例えば色のついた冠菊がないのです。代替え品をあえて上げればアルミニウムで“銀冠菊”と言われています。

kamurogiku

 冠菊が次から次に重ねられ上空から降ってくる様は、なぜか人々を興奮させるようです。

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